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「釣りによる資源量解析はなぜ難しいのか」
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「釣りによる資源量解析はなぜ難しいのか」
〜タグ&リリースによる標識再捕の問題〜
1.標識再捕による資源量解析の基本
〜壷の中の赤玉・白玉モデル〜


図−1−(1)


図−1−(2)


図−1−(3)


図−1−(4)


 上の図−1−(1)〜(4)は、標識再捕の基本形をモデル化したものです。白い玉が、資源量を調べたい魚を表しています。赤い玉が、標識された魚です。赤い玉を10個、壷の中に入れて、白い玉、赤い玉とも、壷の中に均一に分布するように、よく混合します。そうした後で、壷から一度に10個の玉を取り出します。この時の、赤い玉と白い玉の個数、最初に入れた赤い玉の個数から、取り出される前に壷に入っていた白い玉の個数を計算します。取り出される前の、壷の中の赤い玉と白い玉の割合は、壷の中が均一になるように混合されていたらなば、取り出された赤い玉と白い玉の割合と同じなります。従って、以下のような関係が成り立ちます。

・式−1−(1)
取り出された赤い玉の個数 : 取り出された白い玉の個数 = 壷に入っていた赤い玉の個数 : 壷に入っていた白い玉の個数

・式−1−(2)
1 : 9 = 10 : 壷に入っていた白い玉の個数
壷に入っていた白い玉の個数 = (9 X 10)/1 = 90個

 上記のように、図の場合は、壷の中には全部で90個の白い玉が入っていたことになります。




2.ほんの少しだけ現実に近づけてみる
〜孔の開いた壷モデル・タグ&リリースの場合〜


図−2−(1)


図−2−(2)


図−2−(3)


図−2−(4)


 上の図−2−(1)〜(4)は、標識再捕の基本形を、ほんの少しだけ現実の状況に近づけて、モデル化したものです。このモデルで、タグ&リリースを行なうことを想定します。白い大きな玉が、資源量を調べたい魚を表しています。白い小さな玉は、それと同じ種類の魚ですが、捕獲しにくい小さなサイズを表しています。赤い玉が、標識された魚です。玉以外の、三角や四角は、調査の対象外である魚を表しています。

 壷の側面には、孔が開いています。そこから、魚が出入りしています。この出入りは魚の移動だけでなく、死亡や、産卵、成長により捕獲サイズとして新たに加入する魚の存在を示しています。

 まず、壷の中から適当に図形を掴みます。掴んだ図形に白い玉が含まれていれば、赤く塗って番号を記します。そして、これを記録してから、再び壷に戻します。掴んだ図形に赤い玉が含まれていれば、これも記録します。そして、再び壷に戻します。タグ&リリースの場合は、これら一連の動作を繰り返すことになります。しかし、壷に戻した赤い玉を、壷の中に均一に分布するように混合することはできません。

 このような場合、白い大きな玉と、赤く標識された玉が、壷の中でどのように分布しているのか、わかりません。また、複数回のサンプリング行為が行なわれる為、「壷の中の赤玉・白玉モデル」を単純に使うことはできません。




3.標識再捕による資源量推定の問題点

 標識再捕による資源量の推定は、1回放流、1回採捕が基本形です。閉鎖された水域において、1回放流、1回採捕の結果から資源量を推定する方法には、Petersen法があります。開放された水域において、多回放流、多回採捕の結果から資源量を推定する方法には、Jolly-Seber法があります(文献1)。これらの推定方法を用いるには、以下のような問題を検討する必要があります。


3−(1).ランダムサンプリングが成立していること

 どのような方法でも、まず、第一に前提となることがあります。その前提とは、捕獲行為によって魚が採捕される確率が、どの魚についても同じである、とする条件が成立していることです。これは、1回として扱われる捕獲行為内において同じ確率であることであって、別の回として扱われる捕獲行為内での確率とは、異なってもかまいません(文献1)。

 上記の条件を、例えばサイコロを振って、どの目が出るかを推定する場合について当てはめれば、サイコロのどの目が出る確率も同じ(六分の一)とする条件に相当します。この条件を満たすような標本の抽出(魚の場合は魚の捕獲)を、ランダムサンプリング(無作為抽出)と言います。

 魚の分布(面でけでなく水深方向も含む3次元的な分布)が、「壷の中の赤玉・白玉問題」のように均一で、標識された魚もよく混合されていれば、そのような水域で行なう魚の採捕は、捕獲方法をある程度揃えることでランダムサンプリングである、とみなす事ができます。

 しかし、実際の魚の分布は、均一ではなく、時間的にも変化します。また、そのような生態が、よく解明されていないこともあります。魚の捕獲方法も結果に影響します。同じ確率で魚を捕らえるためには、捕獲方法(捕獲のされやすさ)を何らかの基準で揃えなければなりません。これらのことから、ランダムサンプリングを成立させることは、たいへん難しいと言えます。


3−(2).母集団に占める標本集団の割合が大きいこと

 ランダムサンプリングが成立していなくとも、調査しようとする魚全体の、どの部分を捕獲しても、標識された魚の捕獲される確率が同じであれば、ある条件のもとでは、ランダムサンプリングに相当すると考えることができます。

 上記の、ある条件とは、調べようとする魚全体に対して、一度に捕獲、放流される魚の量が十分に多いとする条件のことです。標識再捕で最も単純なPetersen法の場合、推定値(資源量の)に占める誤差の割合を20%程度にしたいとするならば、全体に占める標識魚の割合が5%ならば全体の30%の魚を捕獲し、10%ならば15%の魚を捕獲して調べる必要があるとされています。また、推定値(資源量の)に占める誤差の割合を10%以下にしたいとするならば、全体に占める標識魚の割合が5%ならば全体の60%の魚を捕獲し、10%ならば40%の魚を捕獲して調べる必要があるとされています(文献2)。

 1回の捕獲行為で採捕される尾数が、極めて少ない魚の場合には、上記のような条件を成立させることはできません。ですから、捕獲行為そのものを、人為的に調整して、調査対象となる魚が捕獲される確率を、どの魚に対しても同じである、とする条件を成立させる必要があります。捕獲されることが稀な魚の場合には、その魚の分布や、移動などの生態を十分に知った上で、あるいは予想した上で、捕獲方法や場所、時期を計画し、実施する必要があるのです。

 また、1回の捕獲で採捕される魚が少ない場合、例えば釣りによる標識再捕の場合には、釣り大会などを利用して、採捕尾数をある程度確保する手法が用いられることもあります。このような方法は、池や小さな湖での調査に用いられた例があります。


3−(3).その他の問題

 標識再捕における他の問題点としては、標識の脱落率や、採捕報告率などの問題があります。


4.釣獲による資源量解析の問題点

 一般的には、資源量解析には統計的な手法を用います。漁獲統計から資源量を解析する方法として、よく用いられるものの一つに、VPA(コホート解析)と総称されるものがあります。この方法は、年ごとに、魚の年令ごとの漁獲を分析して、資源量を解析する方法です(文献1)。これら、統計的な手法を用いての資源量解析が有効であるためには、これまでに述べた標識再捕と同じく、捕獲方法がランダムサンプリングに相当すること、母集団に占める標本集団の割合が大きいことが前提となります。漁業による捕獲のように、大量に、しかもほぼ同じ方法で魚を獲るような場合に用いてこそ、ある程度信頼できる結果を得ることができるのです。それでも、解析によって求められた資源量が、実際の資源量と大きく異なることもあり、資源量を評価する為には、複数の異なる方向からアプローチを行なって、得られた結果が信頼できるかどうかを判断するなどします。

 釣りで一度に捕獲される魚は、漁業に比べればずっと少ないことがほとんどです。また、釣獲方法を揃える事も簡単にはできません。釣りを数値化することは、とても難しいのです。


 また、保護を目的として、魚を捕獲して調査する場合には、とくに再放流を行なうような場合には、放流後の生存率が極めて高くなければなりません。例えば、リリース後の生存率を70%とした場合、全体の10%の魚を調査の為に捕獲、再放流するとしても、その調査によって全体の3%の魚が死亡することになります。標識再捕では、信頼できる結果を得るために、大量の魚の捕獲が必要となります。大量の魚を捕獲し、再放流するのであれば、リリース後の生存率が高くとも、結果的には大量の魚を死亡させてしまうことになります。再生産能力の低い魚であれば、このような調査を実施することそのものが、保護にはマイナスであることになってしまいます。




 参考文献:
文献1.水産資源解析学 水産・海洋ライブラリ5,山田作太郎・田中栄次,1999.03,成山堂書店.
文献2.データサンプリング データサイエンス・シリーズ2,北田修一・神保雅彦一・田中昌一・宮川雅巳・三輪哲久,2002.06,共立出版.




2007年03月11日 辻井 豊
2007年03月11日 21:45 文章を整形 辻井 豊
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